例えばマグドナルドとか、吉野家とか、マックスバリューとか、同じ店舗を多数出店していくビジネスをチェーンストアビジネスといいます。2,3店舗でも「チェーン」というかというと、「単一資本による11店舗以上を運営する小売業や飲食店の経営」(国際チェーンストア協会)としているようです。
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チェーンストアのキモは標準化
全国どこであろうと、同じ大きさ、同じレイアウト、同じ規格の設備、同じ商品を扱う店舗にすることで、同じものを大量に仕入れることができます。これは商品だけなく、店内の椅子・テーブルだったり、照明だったり、エアコンだったり、同じ規格の店が100店あれば同じものを100セット注文することができます。
大量の注文は価格交渉力生み、より安くより有利な条件で仕入れることが可能になり、あらゆるものを安く準備することができるようになります。
この規格を統一にすることを「標準化」と呼んでおり、これがチェーンストアビジネスのキモになります。標準化が軸となることで、大量発注、大量仕入れが可能になり、全国どこでも同じ価格で同じ品質のものを提供できるようになります。この標準化という考え方は、建物・設備だけでなく、店で働く従業員に対してもあてはめていきます。店の従業員を標準化させるものが、いわゆるマニュアルです。
チェーンストアにとってマニュアルはチェーンの根幹であり、従業員の接客だけでなく、店の立地・建築、棚の配置、仕入まで多岐にわたります。マニュアルはそのチェーンにとってのノウハウが集約されたものであり、チェーンそのものです。
チェーンストアの戦略
ドミナント出店
チェーンストアの手法のひとつに『ドミナント出店』というものがあります。これは一つの地域に集中的に出店し、店という点ではなく、面で地域を寡占化してくものです。
ドミナント出店による8つのメリット
1つの地域に集中的に出店することには、様々なメリットがあります。
集中的に出店することで、①店舗への物資等の配送効率がよくなり、②エリアマネジャなどのマネジメントもしやすくなります。その地域にたくさん店ができると、そのチェーンに対する③地域での認知度が上がります。認知度が上がれば、チェーンに対する④信頼度も上がり、来客だけでなく、⑤パート・アルバイトの応募も増え、出店の際は、⑥土地建物が借りやすくなり、ます。また店間が近いと、店間で⑦商品の融通や⑧人の応援などが容易になります。
セントラルキッチン
セントラルキッチンとは、飲食系のチェーンの手法の一つで、例えばラーメン店のチェーンであれば、店舗で使う、ラーメンの麺、スープなどを工場で一括して製造するやり方です。工場で一括して製造すれば、店で一からスープを仕込む手間や麺を打つ作業が無くなるだけでなく、全国どの店でも均一の味を出しやすくなります。
飲食のチェーンストアであれば、セントラルキッチン化することで、①品質の均一化、②一括仕入れによる食材費の低減、③店舗運営コストの削減を図ることができます。何より店舗側に熟練の職人を必要としなくなるので、人材育成の期間が短縮でき、店の出店ペースを上げることができます。
この本部で一括するやり方は、チェーンストアの原点でもあります。
チェーンストアの課題
付加価値を付ける
ビジネスモデルは大きく分けると「低価格を追求する」か「付加価値をつける」かです。
チェーンストアモデルは、もともとは低価格を志向するモデルですが、低価格の直線的な追求は早晩限界が来ます。そのときいかに付加価値を持っているかによって、他社との差別化を図ることができます。
付加価値の代表的なものは ①早い(近い)、②高品質、③個別対応、④ブランド の4つですが、チェーンストアに取り入れやすいものとそうでないものがあります。
○:①早い(近い)
早い(近い)は、商品購入に関する顧客の時間を短縮することです。ひとつは吉野家のように、注文してからすぐに商品提供できるということです。この早さは、依頼してから提供するまでの時間だけでなく、レジ時間などの待ち時間を短縮するなど、顧客にとって無駄な時間をいかに削るかです。これはチェーンストアの標準化して合理化を進める指向とよくマッチします。
店までの距離が近いというのも早いことのひとつになりますが、この物理的な距離の問題は、物流時間の短縮により低減させることが可能です。
△:高品質
高品質とは質の高さ、職人の領域に係わることです。最近では下手な中華屋より、レンチンした冷凍チャーハンの方がおいしいなんてこともありますが、それでも一流の料理人の作ったチャーハンには遠く及びません。工業化・機械化により品質を上げ、均質化することはできますが、一流の職人が作るようなレベルのものを大量に供給できるのは限定的です。
△:個別対応
個別対応とは、顧客の様々な個別のリクエストに答えていくものです。ある程度の代表的なリクエストには応じることはできても、チェーンストアの仕組みは、想定していない要求に臨機応変に対応するようにはできていません。顧客の要求には、できるもの・できないもの、応じるべきもの・断るべきもの様々です。それらは標準化・マニュアル化してこなせるものではなく、適切に対応するには結局、現場の人間力に頼らざるをえません。
○:ブランド
ブランドは、それに係わることで自らの満足感を満たしてくれます。それは高品質や高性能(ものによっては高価格)の象徴でもありますが、ブランドの根幹をなすものは、そのブランドへの信頼です。より多くの人がそのブランドを信頼すればするほど、ブランドの価値は高まります。信頼を維持し、高める根源は、高い品質の維持です。一流の職人のみが作り出せる品質まではいかなくても、ある程度の高さで均質化し、維持し続けられれば、信頼を生み出し、チェーンストアであってもブランド化することが可能です。
本部と店舗
チェーンストア運営の基本は、「本部が決め、店で実行する」です。店舗の店長にも多少の権限がありますが、パートの採用とか、町内会の少額の寄付とか、ゴク限定的なものです。かってマクドナルドの店長の残業代が認められるかどうか、店長は経営者側か労働者側かが争われたとき、結論は労働者側でした。マクドナルドの店長は、そこそこ高給取りですが、それでも本部から与えられている権限からみて、労働者に過ぎないと判断されています。
本部が偉そうなチェーン
チェーンストア経営の陥りやすい悪癖は、本部が偉そうにしていることです。本部は細かいことまで一々マニュアルで定め、現場の判断を極力減らそうとします。決まった通りやることはある意味楽ですが、実際には、現場は多種多用であり、従業員も客のさまざまです。それらから生まれる揉め事、トラブルのさばき方をすべてマニュアルで決めておくことなどできません。
本部が店に対して、そのチェーンの本来のあり方、基本的考え方を教育せずに、マニュアルどおり、キマリどおりにやれと指導し続けると、従業員(特に社員)は、目の前の客から目をそむけ、本部の方ばかりを見て仕事をするようになります。
チェーンの優劣は店長の差
全国、あるいは全世界で店舗を展開すれば、気候、風土や気質や嗜好が多種多様なのは当たり前であり、本部ですべてを決めるのは無理があることはわかります。そのためチェーン本部は、個々のマニュアルではなく、チェーンの基本理念、考え方、価値観、優先順位、何を大事にし、何を割り切るかを店長をはじめとする現場従業員に浸透させていく必要があります。
チェーンの基本理念が店長の腹に落ちていなければ、店のパートやアルバイトにその店の存在意義が理解されることはありません。そうなると従業員の働く目的が生活費を稼ぐためだけになり、働くことの喜びなどなく、働くことが社会貢献のひとつだと理解されることはありません。
本当に強いチェーンとは、本部が持つ店舗運営の仕組みやシステムの優劣だけでなく、社会に受け入れられる基本理念を持ち、その理念を理解した店長が数多くいるか、そうした現場マネジャーを育成していける土壌をもっているかによると思います。
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